老犬虚に吠えず

社会問題について考える場として

れいわ新選組参議院議員・舩後靖彦様、木村英子様へ 障がい者支援施設職員からの手紙

 最初は意見書の様な形で凄く硬い文章を書いたんですが、やはり直接両議員の事務所や党本部に文章を送る事はためらわれたので、手紙の様な文章に書き直してここに上げる事にしました。公式な申し入れの様な形にしてしまうと、自分の所属が特定されてしまった時に法人や事業所、何よりご利用者様やそのご家族に迷惑になるだろうと考えたためです。ですからこの発言が舩後議員や木村議員に届くかどうかは分かりません。また仮に届いたとして、匿名の発言として捨て置かれても致し方ないと考えています。ですが個人として、どうしても本件について発言しておきたい、また現在の思いを自分自身が忘れない様に書き残しておきたいと思い、勝手ながら述べさせていただきます。

 

 これから書こうとする事は、あくまでも社会福祉法人の一職員である自分自身の私見であり、法人としての見解ではない事、発言にあたって法人の許可を得たものではない事を明記するとともに、上記理由により、また守秘義務及び個人情報保護の観点から、所属する法人名、事業所名を明かす事が出来ない事を重ねてお詫び申し上げます。また不本意ながら自分の身元が特定される様な事態になった場合には公開を停止します。その点についてはご理解を頂きたいと思います。

 

 さて、両議員に対して私がお願いしたいのは、障がい者支援施設(入所施設)の必要性について、また今現在もそこで懸命に働いている職員に対してのご理解とご協力を賜りたいという点です。

 

 先日、相模原市障がい者施設で起きた痛ましい殺傷事件について、植松被告へ死刑が言い渡されました。この事件については発生から現在に至るまで、福祉関係者にとっては大きな衝撃であると同時に「自分達は果たしてどの様にご利用者様の日々の支援に携わって行くべきなのか」という事を問い直すきっかけともなりました。

 

 ですが、自分が更に衝撃を受けたのは、この事件に関連して両議員が発表されたコメントの中で「自分自身も入所施設において虐待を受けた」という事実を明らかにされた事です。以下にそのリンクを示します。

 

yasuhiko-funago.jp

eiko-kimura.jp 

  この中で、両議員は「入所施設における虐待は、施設が抱える構造的な問題によって発生している」という趣旨の発言をされている様にお見受けします。

 

 舩後議員は『入所施設は、職員と障害者の間に「上下関係」が起こりやすい環境です。』と述べられ、木村議員に至っては更に厳しく『施設の生活は「好きな物を食べたい、外へ遊びに行きたい」そんなあたりまえの望みすら叶わない世界なのです。そこに長く入れられたら希望を失っていく人は沢山います。そしてそこの障がい者を介護している職員も初めは志をもって接していても、家族でさえ担いきれない介護なのに、限られた職員の人数で何十人もの障がい者をみなくてはならず、トイレ、食事、入浴と繰り返すだけの毎日の中で、体力的にも精神的にも疲弊し、いじめや虐待が起こってもおかしくない環境なのです。』と声を大にしておられます。更には『重度訪問介護制度の充実と人手不足の解消が解決されなければ命がけで築いてきた私の地域での生活はすぐに壊され施設へ入れられてしまう危険といつも隣り合わせなのです。』とも述べられています。

 

 『施設へ入れられてしまう危険』

 

 とても強く、ネガティブな言葉だと思います。二度と入所施設には戻りたくないという意志を強く感じます。当然です。虐待を受けた施設に戻りたい人はいません。そして同じ施設ではなくとも、入所施設で虐待を受けた方が、同じ様な生活に戻りたいと願う事はないと思います。虐待によって両議員が感じたであろう苦痛は察するに余りあるものです。それについて自分が何かを言えるとも思えません。代わりに謝罪してもしきれません。ただ、これだけは言わせて頂きたいと思います。

 

 入所施設で働いている自分達は、植松被告と同様の、潜在的な犯罪者ですか?

 

 入所施設という形態に構造的な欠陥があり、全ての職員がやがて植松被告の様になってもおかしくはないのだと両議員がお考えなら、今ここで虐待防止に取り組み、自己チェックや職員間での相互チェックを日々行っている自分たちは「今はまだ虐待に走っていないだけ」「将来的には植松被告と同じになっても何らおかしくはない、潜在的な脅威」と見られているのでしょうか。

 

 自分は事務員です。生活支援員ではありません。ですがもし、入所施設で働く職員に対して、両議員が上に述べたような受け止め方をされているのだとしたら、同僚である現場職員が余りにもかわいそうです。彼等の苦労が、努力が、認められていないと感じます。

 

 重ねて言いますが、お二人が受けた虐待は許されないものです。しかしながら、全ての入所施設が虐待に走っている訳ではない事を知って頂きたい。そして『入所施設という不健全な体制を潰して、重度訪問介護制度を充実させる』という誤った方向(とあえて断言します)に進まないで頂きたい。入所施設に問題があるとお考えなのであれば、その問題を解決する為に力を貸して頂きたい。そう願うのです。

 

 「自分達を虐待した体制を維持する為に、なぜ力を貸さなければならないのか」と思われるかもしれません。入所施設は両議員にとって忌まわしい場所なのかもしれません。ですが現状、その入所施設を生活の基盤としている方々がいます。そしてこの場所が、終の棲家になるであろう方々がいるのです。それは他でもない、重度の知的障がい者です。

 

 両議員は身体障がい者です。移動支援など、必要な支援が得られれば国会議員としての職責を全うできるだけの能力をお持ちです。ですが重度知的障がい者は違います。

 

 自分が勤める施設では重度知的障がい者の方々が入所生活をしています。そのほとんどが、6段階ある障害支援区分で区分5や6に該当する、最も支援が必要とされている方々です。こうした方々の多くは、自宅での生活ができません。守秘義務上、ご利用者の具体的な状態について述べる事はできないので一般論を書きますが、重度知的障がい者の方々はしばしば発作的な自傷や他害、興奮して器物を破損させる等の問題行動を起こします。その他にも自己の体調管理ができない事(過食や絶食、偏食等)や金銭管理ができない事など、地域生活、家庭生活をする上で様々な困難があります。また一度入所施設からグループホーム等に移り、地域移行した方でも、その後に様々な問題があって地域で暮らせなくなり、また施設に戻らざるを得ない場合もあります。

 

 木村議員は『家族でさえ担いきれない介護なのに、限られた職員の人数で何十人もの障がい者をみなくてはならず』とおっしゃいましたが、逆です。重度の知的障がい者を対象とした場合、彼等に十分な介護を提供する事は、家族には不可能です。家族内で介護の全てを引き受けようとすれば共倒れになります。だからプロである生活支援員が介護に携わっています。健康管理の面でも栄養士が献立を作り、看護師や職員がご利用者の体重を定期的に測定して摂取カロリーまで計算した食事を提供しています。日々の体調も事細かにチェックし、定期的な健康診断や通院を行っています。服薬確認や金銭管理、入浴や食事、排泄まで含めて全て介護します。夜勤者も含めて24時間体制で1年365日こうした介護を継続して提供できるのは、入所施設だけです。

 

 現在、厚生労働省の方針としては、『可能な方は入所施設を出て、地域移行してもらう』という方向で進んでいます。施設を出てグループホームに入るなどして、地域の中で自立して暮らせる様に取り組んで下さいという事ですが、重度知的障がい者の地域移行は本当に難しい事です。挑戦するだけでも、まずグループホーム等の受け入れ先を探し、実際にそこで暮らせるか時間をかけて体験と経過観察を繰り返し、それでようやく地域移行に繋げられるかどうかという話です。

 

 そして現実問題として、親は子より先に亡くなります。

 

 多くの入所者にとって、親なき後は入所施設がそのまま終の棲家になります。施設を出る時は、重篤な病気で入院する時か、亡くなった時だけです。

 

 入所を希望するご本人や、そのご家族が最も心配されているのは、正にその「親なき後に、障がい者であるわが子はどうやって生きて行けば良いか」という事です。その困難を解決する為に、皆さん入所を希望されています。それでも、そうした希望者全てを受け入れるだけの余裕はありません。既存の入所施設では既に待機者が列をなしており、ご利用者様が住む県内で入所先が見付からなければ、他県の施設にまで入所希望の問い合わせをせざるを得ないというのが現状です。それも近県ではなく、関東から東北、或いは関西といった遠距離です。そんな状態であっても、先にも述べた通り現在入所中の方が亡くならない限りは、新たな入所希望者に順番は回って来ません。

 

 これが、重度知的障がい者を受け入れている入所施設の現状です。言い換えれば、身体障がい者と重度知的障がい者の決定的な差がここにあります。

 

 特に木村議員が提唱されている様な、重度訪問介護制度の充実と人手不足の解消が図られれば、身体障がい者の多くは自宅での生活ができる様になり、地域の中で自立して暮らせる様になる可能性があります。しかしながら、同じ障がい者と呼ばれる方々の中でも、より自立生活に困難が生じる重度の知的障がい者は、在宅で訪問介護を受けるだけでは暮らして行けないのです。国会議員として、これから障害福祉サービスの改革に乗り出そうとしている両議員におかれましては、そうした『自分よりもなお弱い立場に置かれている知的障がい者の存在』と、彼等の介護に日々取り組んでいる『入所施設の必要性』を念頭に置いて頂きたいと強く願います。

 

 重ねて問います。

 入所施設で働いている自分達は、植松被告と同様の、潜在的な犯罪者ですか?

 全ての入所施設は、虐待の温床ですか?

 

 ご利用者も含めた『自分達』を、どうぞ見捨てないで下さい。今日も入所施設で働く職員を敵視しないで下さい。自分が言えるのはこんな事しかありませんが、その事を切に願っています。