老犬虚に吠えず

社会問題について考える場として

織田信成氏のモラハラ訴訟が叩かれる理由

 

news.yahoo.co.jp

 

 これ、男性として嫌なニュースだったので短いですが言及します。

 

 なぜ嫌なニュースだったかと言えば、マスコミはこれまで織田さんが『男らしくない』事を面白がって番組に起用していたのに、今度は同じ理由でバッシングに近い質問の投げかけ方をしたからです。

 

 アマチュアフィギュアスケートの選手だった頃から、織田信成さんは涙もろい人として知られていました。解説者として、またバラエティー番組出演等の芸能活動を始めてからも、番組中に涙ぐむ場面が多々あり、それが織田さんの「人柄の良さ」を感じさせるものとして肯定的に捉えられて来ました。でもそれは、言い換えれば『男らしくない』事でもあります。

 

 『男が人前で泣くな』とは昔からよく言われています。自分も言われた事があります。

 

 そんな中、人前で涙を見せる織田さんは、優しさや親しみ、人柄の良さを感じさせる人物として人気を博しましたが、その人気の裏側には『あーあ、織田さんまた泣いてるよ』というからかい、もっと酷く言えば嘲りがあった気がします。

 

 今回、織田さんは関西大学アイススケート部の監督だった時に、同部の浜田美恵コーチから無視や陰口、高圧的な態度等のモラルハラスメントを受けたと訴え出た訳ですが、訴えを起こした事、またその1100万円という損害賠償の金額、更にはアイススケート部が競技シーズンに入るタイミングで訴訟が行われた事等について、織田さんが開いた記者会見で質問に及んだ男性記者の口調は『むしろ織田さんが悪いのではないか』という感情を隠しきれていなかった様に思います。

 

 「監督とコーチという関係なのだから、コーチに意見できないのは織田監督個人の資質の問題なのではないか」

 「選手の指導方針の食い違いや職場の人間関係の問題を司法の場に持ち出すのはいかがなものか

 

 そういった記者の本音の部分が質問から透けて見える気がします。そしてその本音を一言で言い換えるならば、「織田さんは『男らしくない』」という事になるのだろうと思います。

 

 女性コーチからきつく当たられて言い返せないのは「男らしくない」

 職場の人間関係のトラブルを訴訟で解決しようとするのは「男らしくない」

 選手に与える影響を考えず、この時期に訴訟に踏み切った事は「男らしくない」

 

 男性記者の質問の端々からそういった意図が感じられた会見でした。でもその『男らしさ』って、そこまで男性が守らなければならない価値基準なのでしょうか。あるいは、縛られなければならない価値基準なのでしょうか。

 

 仮に今回のモラルハラスメント被害者と加害者の性別が逆だったらどうだったでしょう。ベテランの男性コーチが、若い女性監督にきつく当たり、本人に聞こえる様に陰口を言ったり、無視したりする事を繰り返していたら、それでも質問する男性記者は「1100万円という高額の損害賠償」だとか「競技シーズンを迎える選手に与える影響」だとか口にしたでしょうか。訴訟を起こした女性監督の方に問題があるのではないか、コミュニケーション能力やリーダーシップが不足していたのではないかという前提で質問をしたでしょうか。

 

 繰り返しになりますが、マスメディアや自分達は、人前で涙する『男らしくない』織田さんを面白がって消費して来ました。「それも織田さんの魅力だろう」とかなんとか言って、『あーあ、織田さんまた泣いてるよ』とバラエティー番組等で面白おかしく伝えて来ました。それが、実際に織田さん本人が体調を崩す程精神的に追い込まれるに至って、彼が『男らしくない』事を理由にバッシングに近い態度を取るのは卑怯じゃないかと自分は思います。特に、今までその『男らしくない』織田さんの泣き顔を放送する事で番組を作っていたテレビメディアは不誠実でしょう。

 

 対人トラブルやハラスメントの被害が、『男らしさ』の有無でこんなに評価が変わるのならば、そんな男らしさに何か意味があるのでしょうか。最近表現の自由ジェンダーの問題でSNSが賑やかですが、自分はこの織田さんの問題にこそ『男らしくある事』を女性から、また何より同性である男性から強要され続ける、男性特有のジェンダーの問題が横たわっている気がするのです。