老犬虚に吠えず

社会問題について考える場として

小泉進次郎氏が大臣に不適格である理由① 環境大臣として

 自分は福島県在住で、今日は小泉大臣が来るというニュースを見て出勤した。彼が来ても来なくても、自分の暮らしは変わらない。今日も働くし、明日も働く。小泉大臣に会いに行く事は出来ないので、こうして思う所を書く。

 

 最初に断っておくと、自分は小泉進次郎氏個人に対してはいかなる悪感情も持っていないし、政治家としての資質に欠けるとも思っていない。

 

 それでも彼は環境大臣内閣府特命担当大臣原子力防災担当)という役職に対して不適格だと思う。理由はただひとつだ。それは、彼が戦わねばならない敵とは野党ではなく、政権の中枢にいるからだ。彼は同じ政権中枢にいる他の閣僚や、自民党の仲間と本気で戦えるだろうか。

 

 自分は思う。彼はまだ安倍総理とも、麻生副総理・財務大臣とも戦えない。

 

 なぜ環境大臣になると身内と戦う必要があるのか。それはひとえに、環境保護というものは利益追求型の経済活動と対立するからだ。そして環境負荷を軽減する為とはいえ、企業に負担を求める事は、自民党の支持基盤である財界が嫌う。つまり敵は常に身内にいる事になる。

 

 本気で地球温暖化対策を推進しようと思えば、単に温室効果ガスの排出量に削減目標を設定する程度の事では駄目で、税制の見直しも含めた抜本的な対策を講じなければならない。そしてそれを実現するには、麻生財務大臣と意見を戦わせ、相手を納得させなければならない。『戦う』とはそういう事だ。

 

 例えば環境省が過去何度も『環境税(炭素税)』の導入を検討していた事を覚えている方はいるだろうか。

 

 環境省のHPには、今でも『環境税の具体案(平成16年11月5日)』や『環境税の具体案(平成17年10月25日)』という形で当時の案が残されている。それらは現在『地球温暖化対策のための税』という形で一部実現しているが、この『地球温暖化対策のための税』が実際に導入されたのは平成24年10月1日からだった。最初の案から実に8年近くが経過している事になる。

 

 平成16年案の時点で既に『深刻化する地球温暖化問題への対応は待ったなしの状況であるにもかかわらず、我が国の温室効果ガスの排出量は 1990 年比約8%の増。本年は、現在の地球温暖化対策推進大綱の見直しの年であり、追加的対策・施策が不可欠であることは明らか。』と書かれていたのだが、『待ったなし』の状況から8年経たなければ税制改正に至らなかった訳だ。ただ、自分はこれでも不十分だと思う。

 

 話は東日本大震災が起こる数年前に遡るが、当時自分は運送会社で事務方として働いていた。

 実はその時「政府が今度こそ本格的に炭素税の導入に向けて動くらしい」という話があり、燃料価格の高騰も相まって、業界内部で「バイオエタノールを加えたバイオ燃料バイオディーゼル)の導入を本格的に検討する段階に来たか」という気運が一時高まった。

 

 中にはバイオエタノール製造プラントを作り、実際に試験販売する会社もあり、5%のバイオエタノールを加えた軽油でトラックを運行したり、100%バイオエタノールで走行可能な改造を施したトラックが試験走行したりしていた。

 

 結局その流れは様々な問題の発生(車両故障の際、自動車メーカーの保証がどこまで受けられるか分からない。長距離輸送時、復路で給油する事が出来ない等)と、環境税の導入見送り、燃料価格の一時的な下落等で下火になって行った。更には東日本大震災原発事故の発生で環境対策どころの話ではなくなり、自分が知る範囲では完全に立ち消えた。

 

 ただ、自分は思う。もしもあの時、日本が本気で温室効果ガスの削減に乗り出していたら。税制改革を断行して「通常のガソリン・軽油よりもバイオ燃料の方が安い」位の価格差を付けていたら、運輸・自動車業界は脱化石燃料の方向に本格的に舵を切る事が出来ていたのではないだろうか。

 

 別にバイオ燃料でなくとも良い。水素自動車でも電気自動車でも良いのだが、もし国が本格的に脱化石燃料の旗を振っていたら、日本企業は今頃環境分野で世界が取れていたのではないだろうか。

 

 だが実際は、脱化石燃料どころか再生可能エネルギーすら普及する事はなく、原発事故を経ても脱原発の方向に舵を切る事も無く、震災から数えても8年という時間を、政府と財界はドブに捨てた。なぜかといえば、目先の経済的利益を優先して数十年後の未来を捨てる選択をし続けて来たからだ。

 

 財界は常に利益最優先で動く。自民党政権でも、民主党政権でもそれは変わらない。増税には反対するし、短期的な儲けを産まない投資は渋る。人権問題を無視して外国人技能実習生を単純労働者として使い捨てる。環境負荷の軽減に取り組むのはイメージ戦略や広告宣伝の一環としてであって、本業を圧迫する程の負担や大幅な構造改革に耐える程の気概はない。

 

 だから、変化して行く世界に付いて行く事が出来なかった。

 遅れた制度や社会構造を変革する事も出来なかった。

 

 そして、まだ若い小泉進次郎大臣が本気で環境問題に取り組もうとするのなら、彼が戦わなければならないのは、こうした財界人とべったり付き合っている身内の抵抗勢力なのだろうと思う。抵抗勢力とは小泉大臣の父である小泉純一郎元総理が唱えた言葉だが、小泉大臣は抵抗勢力と戦う道を選べるだろうか。自分はまだ、そう思えない。