老犬虚に吠えず

社会問題について考える場として

小泉進次郎氏が大臣に不適格である理由② 原子力防災担当大臣として

 自分は前回、小泉進次郎環境大臣は、与党内の反対派と戦えないが故に環境大臣として不的確なのではないか』という趣旨の記事を書いた。

 

kuroinu2501.hatenablog.com

  前述したのは小泉大臣個人の資質というか、覚悟の程に関する部分だった訳だが、後半として「今回の大臣就任が原発推進派による一種の挑戦なのではないか」という観点から、内閣府特命担当大臣原子力防災担当)としての側面について考えてみる。

 

 小泉大臣は、環境大臣であると同時に原子力災害担当の特命大臣でもあって、この兼務内容について、自分はある種の悪意を感じている。

 

 原子力発電は、環境問題、特に地球温暖化対策の優等生であるかの様に語られて来た。

 

 確かに原子力発電所は、火力発電などと比較して燃料の安定供給が可能であり、温室効果ガスを出さない事が利点だとされている。電気事業連合会のHPでも、原子力発電の特徴として、①燃料の安定供給 ②CO2を排出しない という2点が挙げられている。

 

 小泉大臣は、大臣就任前は「私だって、原発ゼロにすべきだと思ってます。自民党にもいろいろな考えがあるんです」とコメントする等、明確に脱原発を口にしていた。

 

 だが、環境大臣として、仮に「温室効果ガスの削減目標が達成困難だ」という問題が起きたと仮定すると、「原発の再稼働に慎重だからだ」という意見が、与党支持者を中心に広がって行く事になる。

 

 この場合、小泉環境大臣の取るべき道は、原発推進派から見れば2つしかない。

 ①「温室効果ガス削減の為」として、原発を次々再稼働させる。

 ②「原発ゼロ」という持論を堅持する為に、温室効果ガスの削減目指未達という結果を受け入れる。

 

 実はどちらに転んでも、安倍総理としては困らない。

 

 ①なら、小泉大臣は持論を曲げて安倍総理と同じ原発は重要なベースロード電源」という自民党の見解を踏襲する事になる。

 ②なら、小泉大臣の力不足という事で、「脱原発派は理想論ばかりで結果が伴わないではないか」という批判の口実を与える事になり、後任人事では原発推進派を大臣に指名するお膳立てが整うと同時に、より一層原発再稼働や新規の原発建設に道筋が付く事になる。

 

 つまり小泉大臣がどちらを選んでも、安倍総理の支持者や原発推進派は困らない『踏み絵』の様な構造になっている。恐らく原発推進派は「早く原発再稼働を受け入れて楽になれ」と思っている事だろう。

 

 でも、ここには本来第3の選択肢があってしかるべきだ。

 

 原発再稼働によらない方法で温室効果ガス削減に取り組む

 

 この選択肢が原発推進派に見えていないのは、「これまで誰も本気でそんな事に挑戦していないから」だ。そもそも誰も挑戦していないから、成功した者もいない。ではなぜ挑戦者が現れなかったのかと言えば、「原発は安全だ」と思われていた時には、そんな必要は無かったからだ。

 

 地元福島の原発事故が起こる前は、自分も含めた一般大衆は誰も原発の危険性に気付いていなかった。福島県では「福島の原発が作った電気は首都圏に送られて皆さんの生活の役に立っています」という趣旨の、福島県出身の著名人によるCMまで流されていたし、それを見ていた自分は「原発が国の役に立っている事」を好ましく思ってすらいた。事故前から原発安全神話に異議を唱えて警鐘を鳴らしていた人々は、本当に原発に関する専門知識を有した一部の有識者に限られていた。

 

 だから日本全国の、それも雇用が少ない地域の多くでは原発を受け入れたし、それによって一定の雇用が生まれ、地元経済が潤う事を喜んだ。原発を建設する側も、「危ないもの、厄介なものを地方に押し付ける」という考えよりは、むしろ「原発が出来る事が皆の為になる」という『善意』でそれを推進していたのだと思う。

 

 結果日本には(今となっては)過剰な原発があちこちに出来る事になった。それは高度経済成長期の日本にとっては、安定した電源の確保という意味で多大な功績をあげたが、少子高齢化で人口減少期に入った現在の日本では、今度は老朽化した原発と使用済み核燃料を安全に管理しなければならないという意味で負担になりつつある。

 

 原発事故を経た現在の日本では、原発の耐用年数は40年と定められたが、原子力規制委員会の認可を受ければ、運転期間を「20年を超えない期間で、1回に限り延長できる」とされた。つまり1基の原発は最大60年稼働させる事が出来る。逆に言うと、原発が「稼ぐ」事が出来るのは60年だけであり、その後は安全管理をしながら廃炉処理しなければならない「負債」になる。そして延長の認可を出す原子力規制委員会環境省の外局である。

 

 こうした背景を持つ日本の原発推進の流れの中で、誰も挑戦しなかった脱原発について、小泉大臣に今すぐに結果を出せというのは酷だろうと思うし、こう言っては何だが罠だと思う。再生可能エネルギーの普及推進にしても、結局は「ビジネスとして成立する」から企業が投資をして技術開発と普及に取り組むのであって、政府が原発ありきで電力需要を満たそうと考えている内は、どんな企業も本腰を入れて取り組もうとは考えない。

 

 この辺りは前回取り上げた「バイオディーゼルが普及しなかった原因」とも重なるものがある。国が必要な旗振りをしなければ、結果は付いて来ない。旗も振らず、方向性を指し示す事もせずに結果だけを今すぐに要求し、「脱原発には具体案が無いではないか」と貶すのは、種を蒔かずに実を求めるのと何ら変わらず、もっと言えば種を蒔かなかった自分の責任を棚上げしている。

 

 この様に、一種の悪意を感じる人事によって、小泉進次郎氏は環境大臣内閣府特命担当大臣という役職に就いた。そういう意味でも、この人事を彼が受け入れるべきだったのか、自分は疑問に思っている。